駒井能登守であった。
という話の筋を聞いて駒井甚三郎が、なるほどと思い、
「橋の上に一人、船宿の前に一人、都合二人だけ斬られている、もしや、そなたの尋ねる人かも知れぬ、検分なさるがよい」
甚三郎が先に立って、提灯を照らして兵馬を導いたところは、まず橋の欄干に蝉のぬけ殻のようになって、しがみ[#「しがみ」に傍点]ついている一人のさむらいです。
「あ、これだ、これに相違ござりませぬ、これは田村左四郎と申す某藩の士でござりまする。ああ、無惨なことを致しました」
兵馬は眉をひそめて、後ろ袈裟に斬られた田村の無惨な殺され方をながめていましたが、
「さて、もう一人はこちらに、真甲《まっこう》を割られている」
駒井は橋を渡り返して、かの船宿の前へ来て見ると、前に言う通り、真甲の傷を手拭で押えたまま、刀を投げ出して仰向けに倒れています。
「あ、これは多賀六郎と申す某藩の者、以前は蜊河岸《あさりがし》の桃井《もものい》の道場で、相当の腕利《うでき》きでござりましたのに」
兵馬は、やはり無惨極まる思い入れで、その斬られぶりをよく見ておりましたが、
「して、もう一人、余語《よご》と申すやはり某藩の
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