いうことは、そんなに驚くべきほどのことではありません。深夜に一旦外へ踏み出せば、自分が斬られるか、或いは斬られて倒れているものを発見することは、さして難《かた》いことではありません。
けれども、船宿の二階に離れていて、霜に冴《さ》ゆる白刃の音を、遠音《とおね》に聞いているというような風流は、ちょっとないことです。本来、船宿の二階というものは、真剣勝負の白刃の響きを聞いているべきところではありません。江戸時代の船宿の二階というものは、もう少し違った風流の壇場《だんじょう》でありました。
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潮来出島《いたこでじま》の十二の橋を
行きつ戻りつ思案橋
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昔の船宿の船頭には、潮来節を上手にうたうものがありました。辰巳《たつみ》に遊ぶ通客は、潮来節の上手な船頭を択《えら》んで贔屓《ひいき》にし、引付けの船宿を持たなければ通《つう》を誇ることができませんでした。
偶然とは言いながら、駒井甚三郎は、ここで軍艦製造の相談をしなければならないのは、駒井その人が無風流なる故ではありません。文化文政の岡場所が衰えても、この時代の柳橋は、それほど江戸っ児の
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