久しいことになりましたね、今日は、あなたがおいでになるということですから、こうして待っておりました。あなたが恋しいのではございません、郁太郎がかわいそうですからね。だんだん寒くなってゆくのに、あの子は、綿の入った着物一つ着られまいかと思うと、それが心配で、眠れません、どうぞ、あなた、これを郁太郎に持って行って上げてくださいまし。あなたとの間のことなんぞは、どうでもよいではございませんか、恨みを言えばおたがいに際限がありませんからね。もう少しお待ち下さいまし、今、わたくしがこれを縫い上げてしまいますまで」
「うーん」

「もし、あなた、どうなさいました」
 前のは夢の声、これは現実の言葉であります。夢とうつつとの境はよくわかるけれども、女の声には変りがありません。してまた、竜之助の心では、現実の女と、夢の女とを、区別することができません。夢にうなされた自分を呼び起している女の声を、やはり夢で見た同じ女とのみ思うよりほかはありません。
 板橋駅の、とある旅籠屋の一室に、夢に見たと同じような行燈の下に縫物をしているのは、どこやらに婀娜《あだ》なところのある女房風の女でありました。けれどもその
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