るほど」
「まあ、これを一つ見てくれ」
 甚三郎は座右の書類の中から、一枚の折り畳んだ絵図面を取り出しました。
「ははあ、お見事なものでございますな」
 その絵図面は、駒井甚三郎が自ら引いた西洋型の船の絵図面であります。いま言った通り、スクーネル型の三本柱の船と、それから千代田型の細長い船とが、上下に二つ描かれてあるのであります。
 船大工の寅吉、これは豆州《ずしゅう》戸田の人で、姓を上田と言い、その頃、日本でただ一人と言ってもよろしい、西洋型船大工の名棟梁《めいとうりょう》でありました。
 寅吉は机の上に展《ひろ》げた船の絵図面を熱心にながめているし、甚三郎もまた、額《ひたい》を突き合わせるようにしてその絵図面をながめて、あれよこれよと、説明し質問し、質問がまた説明に代ったりしているうちに――もうかなりの夜更けであります。遽《にわ》かに人の叫ぶ声があって、たしか第六天の前、それとも柳橋の袂《たもと》あたりの空気が、ヒヤリと振動したのが、ここまで打って響きます。
 それで寅吉は、我知らず後ろを振向きました。甚三郎は、なお絵図面の上を見ているが、それでも、耳をすまして何事かを聞かんとして
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