お通り下さいませ、お待ち申しておりました」
雨戸の枢《くるる》を外すのも、やはり女の声でありました。
そこで、やれ一安心という気になって、戸の前に置き据えられた駕籠を振返って見ると、そこにはありません。
「オホホ、もう先廻りをしてここにお待ち申しておりました」
戸をあけて微笑《ほほえ》んでいる女の面《おもて》が、見覚えのある面《かお》であります。
「おお、お前はいつのまに――」
さすがの竜之助も、あっけに取られて、その女の面をながめました。まさしく見覚えのある女には違いないけれども、さて、誰を誰と言っていいかわかりません。
「ずいぶん長いことお待ち致しました、もうおいでになるだろう、なるだろうと思いまして、こうしてお仕事をしてお待ち申していましたけれど、いくらお待ち申してもおいでがありませんから、戸を締めました、それでももしやと気にかかるものでございますから、ああして行燈だけは、夜明し点《つ》けておくことに致しました」
何者とも見当のつかない女は、こう言いながら、懐《なつか》しそうに竜之助の手を取って、広い座敷へ案内しました。
その座敷はかなり広いけれども、なんとなく陰気な
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