法師を抱き上げたものらしい。この時に盲法師は悲鳴を揚げました、
「そりゃ、あんまりお情けないことでございます、お屋敷うちへ足を入れましたのは、いかにも、わたくしが悪いのでございます、お叱りを受けましても、お仕置を受けましても、お恨みには思いませんが、井戸の中へ投げ込みなさるのは、あんまりヒドウございます、それほどの罪ではございません、存じませんことでありますし、何を言いましても、眼が見えないんでございますから、ついつい、こんなことになりました、どうか、お助け下さいまし、井戸へ投げ込むことだけは、おゆるし下さいまし」
盲法師は必死になって神尾の毒手から免れようとして、井戸桁《いどげた》にとりついているもののようです。盲法師とは言いながら死力を出して争うてみると、神尾も無雑作《むぞうさ》には投げ込むことができないと見えます。しかし、こうなってみると、神尾の悪癖はいよいよ嵩《こう》じてくるばかりで、いくら盲法師が事情を訴えても、悲鳴を揚げても、それでは許してやるという気づかいはない。それのみならず、彼が悲鳴を揚げてもがけばもがくほど、かえって神尾の残忍性を煽《あお》るようなものであります。
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