って申しわけをしているのは、まだ年の若い、なるほど、名乗っている通りの盲法師であるらしい声であります。ところがこの神妙な申しわけは、頭からケシ飛ばされてしまいました。
「黙れ、黙れ、嘘を言うな、貴様はニセ盲目《めくら》だ、誰かに頼まれてこの屋敷の様子を探りに来たものに相違ない、琵琶であれ、三味線であれ、門附けをして歩くほどの者が、この淋しい染井あたりへ、うろついてどうなるのじゃ、本所からここまで、どう間違っても盲目の独《ひと》り歩きができる道ではない、真直ぐに白状せねば、この井戸の中へ生きながら叩き込むがどうじゃ」
 これは主膳の声ではなく、福村の声のようです。彼等はこの盲法師を、どこまでも偽物《にせもの》と信じているらしい。何者かの頼みを受けて、この化物屋敷の内状を探りに来たものと信じているらしい。
 なるほど、そう疑えば疑われる余地がないではありません。門附けをして歩くと言いながら、田舎《いなか》同様なこの染井あたりへやって来るというのもわからない。また盲目の身で、本所からここまで流して来たというのも充分に不審の価値はあるのであります。それからまたこの化物屋敷の内状というものが、実
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