を煙《けむ》に巻くようなものとなりました。
「おいらには、何が何だかよくわからねえが、お前の尋ねるその盲目《めくら》の先生はな……本当のことを言えばこの家にいるんだ」
「エ、この家に?」
「そうさ、この家においらと二人で隠れているんだが、今はいねえ」
「どこへ行きました」
「どこへ行ったか、おいらにもわからねえんだが、夜になると、おいらに黙って、そっと出し抜いて出かけてしまうのだ」
「まあ、どこへ行くのでしょう、そうして、いつごろ出かけて、いつごろ帰ります」
「いつごろ帰るんだろうなあ、朝になって見ると、ちゃんと帰ってるからなあ」
「あ、それではわかった、きっと吉原へ行くのでしょう」
「吉原へ?」
「お前に知れないように、吉原へ行って、またお前に知れないように、ここへ戻っているんでしょう」
「そうじゃねえ」
「それでは、どこへ何しに行きます」
「うむ、そいつは、ちっと言いにくいなあ」
米友は頭を抱えて、畳の上を見つめますと、女はいっそう強く、
「言ってごらん、何を言っても、わたしは怒らないから」
「うむ、お前はいったい、あの盲目《めくら》の先生を、いい人と思っているのか、それとも悪人
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