綿で首を締められるように苦しくもあるが、この人だけに頼もしいところもあります。
思案に余った上、兵馬はついに今の胸の中を、南条力に向って打明けました。
それを聞いていた南条力は、
「してみると、その気の毒な女を救うてやりたいが金が無いということに帰するのじゃな。ぐずぐずしていれば他人が引き抜いて持って行くかも知れぬという怖《おそ》れもあるのじゃな。ともかくも傾城《けいせい》一人を身請けするというからには、相当の金がいるはずである、よほど遊んだ金を持っている奴でなければできないことじゃ。宇津木君、君がそんなことに関係したのは柄ではない、よろしく見殺しにするに越したことはないのだが、君もここまで切り出して拙者に相談を打つからには、退引《のっぴき》ならぬ義理もあるのだろう、乗りかかった船で、ぜひに及ばぬ羽目になっているのだろう、ここは一番、拙者が肌をぬいでやろうかな」
こう言って莞爾《かんじ》として笑いました。兵馬にとってはこの一言が頼もしいような、擽《くすぐ》ったいような感じがしました。けれども、冗談《じょうだん》にしろこの男が一肌ぬいでやろうと提言してくれたことは、非常なる心強さで
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