が多いこと、この二つは近来になって、ことさらに眼に立つようになりました。
それを、誰よりもいちばん早く見て取ったから、お松の気を揉むのは無理のない話です。
宇津木兵馬はこのごろ、吉原通いが面白くなりました。
あの時のように、東雲《しののめ》と二人で碁を打っているだけでは納まらなくなりました。東雲が勤め気を離れて兵馬を可愛がるようになると、兵馬の心が漸く熱くなってゆきました。
兵馬の傍にはお松という者もあり、お君のような美しい女もいるのに、兵馬はそれに心を取られることがありませんでした。
京都にいた時も、新撰組の連中と島原界隈にずいぶん出入りもしたけれども、ついぞ、その道に溺れるということがありませんでしたのに、ここへ来て東雲に打込むようになったのは、全く思案のほかと言わなければなりません。
人間が純良であるだけに、打込むことが深いと見え、女は商売柄、いくらかの余裕もあり、手管《てくだ》があっても、兵馬は突きつめた心で、その言うことの全部を信用してしまいます。生一本《きいっぽん》に打込むようになると、自分が愛するだけ、他から愛してもらわなければ満足ができないものになってみると
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