せたことは、お角にとっては仏様でありました。口惜《くや》しまぎれに七兵衛に向ってこのことを語り出すと、七兵衛が面白がって、
「そいつは面白い、そういうふうに仕かけられたんでは、こっちもそのつもりで喧嘩を買わなくっちゃならねえ。しかしお角さん、お前がムカッ腹でどなり込んで行った日には先方の思う壺だ、なんとかいい知恵はねえものかなあ」
七兵衛が面白半分に頭をひねって、小膝をぽんと打ち、
「いい知恵が一つ湧いて来た、それをお前さんに授けるから、上手にやってごらんなさい。その知恵というのはこういうわけなんだ、当人のお絹さんへぶつかっちゃいけないよ、あれはたかをくくったように見せかけておいて、搦手《からめて》から、神尾の大将を責めるんだね。その責道具というのはこういう仕組みにするといい、まず、神尾の殿様へ使を立てて、このたび、ぜひ殿様にお目ききを願いたい掘出し物が出ましたとこう申し上げるんだ、それは何だと来る、お腰の物でございます、刀でございますとこう申し上げると、刀は誰の作だとお言いなさるにきまっている、それはほかではございません、伯耆《ほうき》の安綱でございますと申し上げると、きっと神尾の
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