ちぶり》ではありません。
 けれど、馬子の口から出たことは間違いがありません。
 その時に、馬に附添って来た三人の武士は、汝《おの》れ狼藉者《ろうぜきもの》! と呼ばわってきってかかりでもするかと思うと、それも微塵《みじん》騒がず、遽《にわ》かに馬の側から立退いて、やや遠く三方に分れて立ちました。この陣場ケ原というところは、昼ならば碓氷峠第一の展望の利くところでありますから、そうして三方にめぐり立てば、どちらの方面から来る人の目を防ぐこともできます。
 ところで南条力は、右の一言を発しただけで、前にいた馬子の傍へ立寄ると、五十嵐甲子雄は二番目の馬子に近寄って、
「お役目御苦労」
と、やはり低い声で言いかけると、
「御苦労、御苦労」
と第二の馬子も、やはり馬子らしくない口調で一言《ひとこと》いったきり。そこで、馬子は提灯《ちょうちん》を鞍へかけて、都合四人が、おのおの己《おの》れの衣裳を脱ぎ換えはじめました。
 南条と五十嵐とは己れの衣類大小をことごとく脱ぎ捨てて、馬子はその簡単な馬子の衣裳を解いてしまうと、この両者は手早くそれを取換えて一着してしまいました。そうして忽《たちま》ちの間に
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