との十二歳でございました。こんなに眼の不自由になったのはいつからだとおっしゃるんですか。それは、つい近頃のことですよ。もっとも小さい時分から眼のたち[#「たち」に傍点]はあまりよくはございませんでしたがね、この春あたりからめっきり悪くなりました、桜の花の咲く時分に、ポーッとわたしの眼の前へ霞《かすみ》がかかりましたよ、その霞が一時取れましたがね、秋のはじめになると、またかぶさって参りましたよ、今度は霞でなくて霧なんでしょうよ、その霧がだんだんに下りて来て、今では、すっかり見えなくなりました。へえ、そりゃ随分悲しい思いをしましたよ、心細い思いをしましたよ。けれども泣いたって喚《わめ》いたって仕方がありませんね、前世の業《ごう》というのが、これなんです、つまり無明長夜《むみょうちょうや》の闇に迷う身なんでございますね。その罪ほろぼしのために、こうやって毎晩、この燈籠を点けさせていただく役目を、わたしが志願を致しました、自分の眼が暗くなった罪ほろぼしに、他様《ひとさま》の眼を明るくして上げたいというわたしの心ばかりの功徳《くどく》のつもりでございますよ。ナニ、雨が降ったって風が吹いたって、そ
前へ
次へ
全206ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング