ょうしんごん》の唱えのみが朗々として外に響きます。
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※[#「口+奄」、第3水準1−15−6]阿謨迦毘盧遮那摩訶菩怛羅摩尼鉢曇摩忸婆羅波羅波利多耶※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《おんあもきゃびろしゃのまかぼだらまにはんどまじんばらはらはりたやうん》――
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 コトコトと梯子段を登る音が止んで暫らくすると、六角に連子《れんじ》をはめた高燈籠の心《しん》に、紅々《あかあか》と燈火が燃え上りました。光明真言の唱えは、それと共に一層鮮やかで冴《さ》えて響き渡ります。
 その余韻《よいん》が次第次第に下へおりて来た時分に、前の潜り戸のところへ姿を現わした盲法師の手には、前と同じような青銅《からかね》の釣燈籠が大事に抱えられていましたけれど、持って来た時とは違って、その中には光がありませんでした。そのはずです、中にあった光は、高くあの六角燈籠の上へうつされているのですもの。その光をうつさんがためにこうして、トボトボと十町余りの山道を杖にすがってやって来たのですから、今はその亡骸《なきがら》を提げて再び山へ戻るのが、まさにその本望でなければなり
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