里見八犬伝は、その発祥地を諸君の領内の富山《とやま》に求めているし、それよりもこれよりもまた、諸君のために嬉し泣きに泣いて起つべきほどのことは、日蓮上人がやはり諸君の三十五方里の中から涌《わ》いて出でたことであります。
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「日蓮は日本国東夷東条、安房の国海辺の旃陀羅《せんだら》が子なり。いたづらに朽《く》ちん身を法華経の御故《おんゆゑ》に捨てまゐらせん事、あに石を金《こがね》にかふるにあらずや」
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日蓮自ら刻みつけた銘の光は、朝な朝な東海の上にのぼる日輪の光と同じように、永遠にかがやくものでありましょう。
その日蓮上人は小湊《こみなと》の浜辺に生れて、十二歳の時に、同じ国、同じ郡の清澄《きよすみ》の山に登らせられてそこで出家を遂げました。それは昔のことで、この時分は例の尊王攘夷《そんのうじょうい》の時であります。西の方から吹き荒れて来る風が強く、東の方の都では、今や屋台骨を吹き折られそうに気を揉《も》んでいる世の中でありましたけれど、清澄の山の空気は清く澄んでおりました。九月十三日のお祭りには、房総二州を東西に分けて、我と思わんものの素
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