の稲荷様へ願がけに参ったものらしうございますね、その帰りをあの悪者が待ち受けていたものでございます、そうして通りかかったところを柳の蔭から出て、ぐっとこうして羽掻締《はがいじ》めにしてしまったから、女の方《かた》は何も言うことができなかったんだろうと思われます、それとも、あんまり怖いから、つい口が利けなくなってしまったのかも知れません、それから暫くして、お前は幾つだ、と悪者が聞きました時に、女の人が十九だと申しました。それからのことは申し上げられません、私がぼんやりしてしまったのでございます、何が何だかエレキにかけられたように私は、それを聞きながら、咽喉《のど》がつまって一言も出ないで、立ち竦《すく》んでしまったんでございます。ところが、わからない上にもわからないことは、その悪者が病人なんでございますよ、それが全く不思議でございます、歩くにさえやっと息を切って歩く病人でございます、その病人が、あなた、やっぱり、ああして辻斬に出て歩きたがるんですから、ずいぶん腕は利いているんでございましょう。それにあなた、あれは、ただ人を斬ってみたいという辻斬とは全く違います、ただ斬っただけでは足りない
前へ 次へ
全206ページ中192ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング