に、闇の中にのたうち廻っているのが、まざまざと眼に見えるようです。
石のように立ち尽していた弁信が、その恐怖から醒《さ》めたのは、それから暫く後でありました。
「弁信さん」
お蝶もこの時に、ようやく口を利《き》けるようになって、
「弁信さん、お前、何を見ていたの」
「わたしゃ、何も見えやしません、ただ、だまって聞いていました」
「何を聞いていました」
「あすこで人が殺されたのを聞いておりました、女の人がなぶり殺しに殺されるのを、だまって聞いておりました」
「何ですって、女の人が殺された? 冗談《じょうだん》じゃありません、嚇《おどか》しちゃいけませんよ」
「嚇しじゃありません、かわいそうに、ぐっと抱き締められて、その上に刀で幾度も抉《えぐ》られました」
「ほんとに、そんな気味の悪いことを言うのはよして下さい、そうでなくってさえ、わたしはお前さんに留められてから、何だか凄《すご》くなって、怖《こわ》くなって堪らないのですもの」
「どうしてまた、私は、あの人を助けて上げられなかったのでしょう」
「あの人だなんて、誰のことなんですよ、誰もいやしないじゃありませんか」
「あ、そうでしたか
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