若党の肥った男であるらしい。
それをやり過ごした兵馬と男装の女とは、庚申塚の蔭から出て来ました。
「どうも不思議だ、今のあの武家は、たしかにあれは神尾主膳に違いない」
兵馬はこう言って、闇に消えて行く三人の後ろ影を見つめて追いかけました。
十八
それからいくらも経たない後、両国の見世物小屋の屋根から高く釣り下げられた大幟《おおのぼり》に、赤地に白く抜いて、
[#ここから2字下げ]
「山神奇童 清澄の茂太郎」
[#ここで字下げ終わり]
とあります。
その見世物小屋というのは、過ぐる時代に、珍らしい印度人の槍芸《やりげい》のかかった女軽業《おんなかるわざ》の小屋で、その後一時は振わなかったのを今度、再びこの山神奇童が評判になって、みるみる人気を回復しました。
[#ここから1字下げ]
「安房の国、清澄の茂太郎は、幼い時に父母に別れ、土地の庄屋に引取られ、いろいろと憂き艱難、朝《あした》は山、夕べは磯、木を運んだり汐《しお》を汲んだり、まめまめしく働くうちに、庄屋のお嬢さんに可愛がられ、お嬢さんの頼みで、鋸山は保田山日本寺の、千二百羅漢様の、御首を盗んだばっかりで
前へ
次へ
全206ページ中164ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング