のを、ここでも平身低頭の体《てい》で詫《わ》び入るのだから、この武士の堪忍力の強さと言おうか、意気地なしの底無しと言おうか、それに兵馬は呆《あき》れながら、
「お人違いとあらばぜひもござらぬが、御姓名が承りたい、いずれの御家中でおいでなさるか、それも承りたい」
こう言って突込むと、
「それはお許し下されたい、このままにてお見逃し下されたい」
「いいや、それは相成らぬ」
あまりに兵馬が執念《しつこ》いために、さすが堪忍無類の覆面ももはや堪《たま》り兼ねたか、兵馬の隙を見すまして自分の脇差に手をかけて、スラリと抜打ちを試みようとするらしいから、それを心得た兵馬は逸早《いちはや》くその武家の利腕《ききうで》を抑えると、意外にもそれは女のように軟らかな手先であります。
利腕を取った時に兵馬も、これはと驚きました。手先を押えられた覆面は、それを振り放そうとしましたけれども、その力がありません。
「どうぞ、お許し下さいませ、このままお見のがし下さいませ」
その声は、生地《きじ》になった女の声であります。
「そなたは御婦人でござるな」
「はい」
もう争うても無益と観念したらしく、覆面の武家
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