まあ、お書き下さいましたか、これはこれは、なんというお見事なお筆でございましょう、生きているようでございますね」
お角も看板の文字を見て、心から嬉しそうであります。
「生きているとも」
神尾もまた自分ながら、書き上げた看板の文字に得意でいます。
「太夫元、奢《おご》らなくちゃあいけやせんぜ」
福兄《ふくにい》はこう言って、お角を嗾《け》しかけました。
「奢りますとも、何なりとお望みに任せて」
「よろしい、所望がある」
福兄が改まってむきになると、
「福、貴様がでしゃばるところじゃないぞ、貴様は墨のすり賃に、二百も貰って引込めばいいんだ」
神尾が福兄をたしなめると、福兄は納まらず、
「いけやせん」
胡坐《あぐら》を組み直して強面《こわもて》にかかろうとするのを、お角は笑いながら、
「福兄さんには殿様に内密で、わたしが、たくさんお礼を致しますから、もう少し待って下さいね、今が大事の時なんですから。その代り今度のが当りさえすれば、ほんとうに福兄さんを福々にして上げますからね」
「うまく言ってやがらあ。けれども、そう話がわかりゃそれでもいいんだ」
福兄はそれで、どうやら納まりかけ
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