ってしまいました。
十六
神尾主膳の隠れている例の染井の化物屋敷は、依然として化物屋敷であります。
真中の母屋《おもや》には神尾主膳が住み、そこへ出入りするのは、旗本のくずれであったり、御家人のやくざ[#「やくざ」に傍点]者であったり、どうかすると、角力《すもう》や芸人上りのようなものであったりするけれども、ここではあまり騒ぐことはなく、三日に一度ぐらい、主膳はその家を忍び出でて、夜更けて帰ることが多い。
それから離れの方には、例のお絹が別に一廓を構えて、若い女中を一人使って、ほとんど母屋とは往来をしないで立籠《たてこも》っているかと思えば、土蔵の中にはお銀様が、怨《うら》むが如く、泣くが如く、憤《いきどお》るが如く、ほとんど日の目を見ることなしに籠っているのであります。お銀様と神尾の台所の世話をしているのは、練馬《ねりま》あたりから雇い入れた女中ではあるが、この女中は少しく痴呆性《ちほうせい》の女で、それに聾《つんぼ》ときているから、化物屋敷にいて、化物の物凄いことを感得することができません。
今日は神尾主膳が、朝から酒につかりながら、座敷の壁へ大きな一
前へ
次へ
全206ページ中139ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング