一ぺん言ってみろ、本来なら貴様が突き倒されてしまうところを、危ねえ! と思ったから左へよけて、貴様の身体は無事だったが、こっちがそのハズミを食って身代りに倒れたとは何の言い草だ、左へよけて身体の無事であった方は無事でよかろうけれど、身代りに倒された方こそいい面《つら》の皮《かわ》だ、この面の皮をいったいどうしてくれるんだ」
金助はこう言いながら、グイグイと米友の着物を引張りました。
「おい、あんまり引張るなよ、質《しち》の値がさがらあな、着物を引張らなくっても文句は言えそうなもんだ」
米友は仕方がなしに引き寄せられていると金助は、いよいよ怒り出して、
「この野郎、いやに落着いていやがら。いったい、人を転がしといて、身代りに倒れたで済むか、この野郎」
「だって仕方がねえじゃねえか、おいらが倒れなけりゃあお前が倒れるんだ、お前が倒れたからおいらは倒れないで済んだんだ、幾度いったって同じ理窟じゃねえか、いいかげんにしといた方がお前の為めになるよ」
この時に金助は、火のようになって、
「この野郎、もう承知ができねえ」
拳を上げてポカリと食《くら》わせようとしたが、相手が宇治山田の米友で
前へ
次へ
全206ページ中135ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング