人で勝手に怒っているんだけれど、よく話をすれば、わたしのことだもの、そんなにわからない米友さんじゃないわ、わたし、もう一ぺん、ようく話をしてみたいと思うの、あの人を怒らしておいちゃ悪いわ、ほんとにあの人はいい人なんだから、怒らしておいちゃ悪いわ。けれども、どうしてあの人はあんなに気が短いんだろう、甲州で別れる時にも、わたしばかりじゃない、あの殿様を大変に悪く思って別れたんだから……殿様を敵《かたき》のように悪口を言って出て行ってしまったのは、お前もあっちにいたから、よく知っているでしょう、それがわたしにはどうしてもわからないの。殿様は悪いお方じゃありません、米友さんもちっとも悪い人じゃありゃしない、それだのに、どうして仇のように思うんでしょう。殿様は、あんなえらいお方でいらっしゃるし、友さんは、わたしと同じことに、とても身分は比べものにはなりゃしないけれども、それでもわたし、米友さんに憎まれるのはいや。いったいわたしゃ、殿様と米友さんとどっちがいいんだろう、どっちがほんとうに好きなんでしょう、わからなくなってしまった」
 ムク犬は、もとよりこの疑問に答うべくもありません。
 今まで忠実
前へ 次へ
全206ページ中128ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング