のと同じようにあっけないものじゃ。辻斬が嫌になったら、その時こそ、この幽霊も消えてなくなるだろう、まあ、それまでは辛棒《しんぼう》していてくれ」
竜之助は寝返りも打たないで、洒然《しゃぜん》としてこう言ってのけました。
「うーむ」
枕許に腕を組んでいた宇治山田の米友が、それを聞いて深い息をして唸《うな》り出したが、頓着せず、
「友造どん、お前の槍の手筋はどこで習ったか知らないが、まるで格外れで、それで、ちゃんと格に合っているところが妙だわい。拙者の如きは、これでも幼少より正式に剣を学んだのじゃ、先祖以来の剣道の家に生れて、父と言い、師と言い、由緒の正しいものだ。拙者だけは破格だ、師に就いたけれども師がない、型を出でたけれども型が無い、一生を剣に呪われたものかも知れぬ、生涯、真の極意《ごくい》というものを知らずに死ぬのだ、もし、神妙というところがあるなら、それを知って死にたいものだがな」
竜之助は平然として、こんなことを言い出したが、今日はその述懐に、多少の感慨があるようです。
底本:「大菩薩峠5」ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年2月22日第1刷発行
「大菩薩峠6」ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年2月22日第1刷発行
底本の親本:「大菩薩峠 四」筑摩書房
1976(昭和51)年6月20日初版発行
※「陣場ケ原」「小金ケ原」の「ケ」を小書きしない扱いは、底本通りにしました。
入力:(株)モモ
校正:原田頌子
2002年9月21日作成
2003年7月27日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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