奴と思いながらも、何か尋ねてみたい気になって、
「金助さん、宇津木さんはおりませんよ、何か御用なら、わたしが承っておきましょう」
「左様でございますね、別に御用ってほどのこともねえでございますがね、それではこれでお暇《いとま》を致しましょうか知ら」
「あの、金助さん、お前さんに御用がなければ、わたくしの方にお聞き申したいことがあるのですけれど、ちょっとあちらまで来て下さいませんか」
「へえ、お松様、あなた様から何か私に御用があるとおっしゃるんですか、よろしうございます、そうおっしゃられるといやと申し上げるわけにも参りませんな、お邪魔を致しましょう」
金助は恩にきせるような言い方をして、お松のあとに従って、長い廊下の奥へ行く途中で、
「なるほど、結構なお邸でございますな、ははあ、こちらの障子が霞でございますな、欄間《らんま》の蜀江崩《しょっこうくず》しがまた恐れ入ったものでげす、お床の間は鳥居棚、こちらはまた織部《おりべ》の正面、間毎間毎の結構、眼を驚かすばかりでございます、控燈籠《ひかえどうろう》の棗形《なつめがた》の手水鉢《ちょうずばち》、あの物さびたところが何とも言われません、建前《たてまえ》にこうして渋いところを見せ、間取りには贅《ぜい》を凝《こ》らしておいて、茶室や袖垣のあんばいに、物のさび[#「さび」に傍点]というところをたっぷりとあしらったところなどは実際憎うございますよ。おやおや、大した石燈籠、こりゃ本格ですよ、橘寺形《たちばなでらがた》の石燈籠、これをそのまま据えたところなんぞは、飛ぶ鳥も落すようなものでげす、十万石以上のお大名でもなけりゃ出来ません。全く驚きました、表からお見かけ申したんじゃ、これほどのお住居《すまい》と気のつくものはございません」
金助は相変らず歯の浮くような追従《ついしょう》を並べて、四辺《あたり》をキョロキョロ見廻しながら、お松に導かれて廊下を歩いて行きます。
十四
その時分、お君はムク犬を連れて、奥庭を歩いておりました。
いつぞやのように打掛《うちかけ》こそ着ていないけれども、寝衣姿《ねまきすがた》のままで、手には妻紫《つまむらさき》の扇子《せんす》を携えて、それで拍子を取って何か小音に口ずさんで歩いて行くと、それでも例によってムクは神妙にあとをついて、築山《つきやま》の前の芝生まで来ました。
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