は備前岡山で三十一万五千二百石、池田信濃守様の御同勢だと、こう思うんでございます」
一方からはこんな申立てをするものがある。
「ナニ、そうではござんせん、たしかに抱茗荷、肥前の佐賀で、三十五万七千石、鍋島様の御人数に違いはございません」
「いいえ、揚羽でございましたよ、備前の岡山で、三十一万五千二百石……」
今までそれとは気がつかないでいて、不意にこの同勢を引受けた人、ことに屋台店の商人《あきんど》などは、狼狽して避《よ》けるところを失う有様でありました。この場合に邪魔になるのは、米友を中心として、梯子芸に夢中になっている見物の一かたまりであります。
「叱《しっ》!」
先棒が叱ってみたけれど、その一かたまりを崩すにはかなりの時がかかります。後ろの方は気がついても、前の方は全く知らないのであります。尋常ならば、強《し》いてその一かたまりを崩すことなくして通行にさしつかえないはずであったのを、そのお供先はどういうつもりか、米友を囲んだ一かたまりの中へ突っ込んで来ました。
「おやおや、お通りだ、お通りだ」
はじめて気のついた連中が、驚いて逃げ出したのを、梯子の上で米友は、じっとながめ
前へ
次へ
全200ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング