はあるめえかな」
籠抜けの伊八は、なおそこにゴロゴロしている芸人どもを物色すると、
「それじゃあ、紅《べに》かんさんにお頼ん申したらよかろう」
「なるほど」
紅かんさんと言い出すものがあって、籠抜けの伊八がなるほどと首を捻《ひね》ったが、
「紅かんさんなら申し分はねえけれど、紅かんさんは聞いてくれめえよ、あの人はこちとら仲間のお大名だから」
「そりゃそうだろう。そんなら新参の友兄いをひとつ、引張り出したらどうだ」
「なるほど、友兄いは思いつきだな」
籠抜けの伊八は、ようやく得心《とくしん》がいったと見えて、急に元気づいて、
「友兄い、友兄いはいねえか」
大きな声をして後ろを顧みながら、呼んでみたが返事がありません。
「友兄い、籠さんが呼んでるよ」
集まった者共が、声を合せて呼んでみたけれども、友兄いなる者は、返事もしなければ姿も現わしません。蓋《けだ》しその友兄いなるものは宇治山田の米友のことです。
呼んでみたけれども、友兄いなるものは返事もせず、姿も見せないし、探してみてもこの家におり合せないことがわかりました。それから後、籠抜けの伊八は、誰をつれて行くことになったか、昼
前へ
次へ
全200ページ中84ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング