この世に永らえているんでございましょう。ただ残念なことには小遣《こづかい》がありませんな。江戸へ着きましたら、少しばかり小遣にありつくような仕事を、お世話をなすっておくんなさいまし。まあ、私共の望みとしてはそのくらいのものでございますねえ」
兵馬は聞いているうちに、この野郎がかなりくだらない野郎であると思いました。けれどもこんなことを言い言い、自分の心を引いたり目つきを見たりする挙動に、多少、油断のならないところもあるように思いながら、
「金助、お前が、あの神尾主膳の在所《ありか》をさえ確めてくれたら、相当のお礼はする」
「それはなかなか大役でございますねえ」
金助はわざとらしく大仰《おおぎょう》に言い、
「しかし、あの神尾の殿様は、さすがに苦労をなすったお方だけに、届くところはなかなか届くんでございますから、あそこのところだけは感心でございますがね、あれがまあ、苦労人の取柄《とりえ》でございましょうな」
「苦労したというのはどういうことなのだ」
「どうしてあの方は、なかなか遊んだお方でございますよ」
「苦労したとは、遊んだということか」
「そうあなた様のように生真面目《きまじめ》
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