います。その行先でございますか、それはわかりません、いずれ山また山の奥の方へ連れて行かれたんでございましょう」
 金助の白状は嘘《うそ》か真実《まこと》か知らないが、神尾主膳が恨みの者の手によって生捕られたことは、信じ得べき根拠があるようです。
 けれども、それは兵馬が強《し》いて突き留めたいことではありません。神尾が果して机竜之助を隠匿《かくま》っているかいないかということを知りたいのが、兵馬の唯一の望みであります。しかし、不幸にしてそれは金助が全く知らないことでした。兵馬の失望したのは、全く竜之助は神尾の屋敷にいなかったと見るよりほかは仕方がないからであります。少なくともあの火事の晩に避難した者の中には、机竜之助があったと想像することはできませんでした。
「そういうわけでございますからね、私共は実は金《かね》の蔓《つる》を失ったわけなんでございますよ、神尾の殿様を種無しにしたんじゃ、これから先が案じられるのでございましてね、山ん中へ探しに行こうかとこう思ってるんでございます」
 金助はようやく起してもらって、こんな愚痴を言いました。
「お前は今、どこに奉公しているのだ」
「私でござ
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