でいらっしゃいますか、子曰《しのたま》わく君子は器ならずというんでございましょう、子曰わくは結構でございますね、十有五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わずとありましたな、あなた様はちょうどその志学のお年頃でございましょう、ところが私なんぞは三十にして立たず、四十にして腰が抜けというところなんでございます、どうもいけません。しかし辰一郎様、人間は学問ばかりしたからといってそれでいいというわけではありませんね、青表紙をたくさん読んで、活字引《いきじびき》になってみたところで一向つまりませんな、活字引はまだいいけれども、腐れ儒者となった日には手もつけられません、学問は実地に活用しなければつまらねえんでございます。いかがでございます、時々は狂歌、都々逸《どどいつ》、柳樽《やなぎだる》の類《たぐい》をおやりになっては。ああいったものをやりますと、自然に人間が砕けて参りますな、人間にそれだけユトリが出来て参りますな、人間は朝から晩まで子曰わくではやりきれません、風流ということは大切なものでございますよ、ちと、その方を御指南致しましょうかね、は、は、は」
「金助どの」
「はい」
「お前は
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