それとはまた別に、長者町に妾宅を構えた鰡八大尽《ぼらはちだいじん》も、御多分に洩れず洋行することになりました。これは政治向の視察よりも商売向を調べたいのですから、数十人の番頭を召連れて、顧問として各種の商人に同行してもらい、それに大尽もかなり年をとっているから、途中万一の心配のため、医者から看護人から、花のような女中まで連れ、その上に、外国へ行っての気候や食物の変化を慮《おもんばか》って日本の食料品を充分積み込み、腕の冴《さ》えた料理人を召抱え、その他、衣類から、酒類から、万事ぬかりなく、向うへ行って附ける味噌まで用意して行こうという騒ぎでありました。
その前祝いのために、この妾宅で立振舞《たちぶるまい》がありました。それはまた、なかなか盛んなる景気でありました。余興には美人を集めて、鬼ケ島の征伐をするということであります。案内を受けた朝野《ちょうや》の名流は、ゾロ、ゾロ、ゾロと定刻からこの妾宅へ詰めかけて来ました。
この朝野の名流というのが、いつも大抵きまった面振《かおぶれ》なのであります。何か事があるとゾロ、ゾロ、ゾロと出て来て、ズラリと面《おもて》を並べて設けの席に着きます。
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