、米友は立ちどまって、はっと気がつきました。この家は箱惣の家であります。前に自分が留守をしていたことのある家、そこで浪人を追い払ったことのある家、またこの間はそこの井戸で、子供を水中から救い出したことの覚えのあるその家だけが物穏《ものおだや》かでないから、米友はギックリと立ちどまって、暫く様子を見なければなりません。
 その家の前に提灯をさげて、二三の人を差図をしているらしいのは、まだ若い女でありました。
「お秋さん、お前は台所町の方へ廻って下さい、お前さんと栄助さんがあちらから廻って、辻番でいちいちお聞き申してみて下さい、そうしてやはり両国橋へ出て、こちらの組と落合うようにして下さい。わたしはどうしても両国を渡ったものとしか思われない、でも途中で辻番に留められているかも知れないから、よく聞いて下さい」
 この差図をしている若い女の人の声、それが、まさに聞いたことのある人の声でしたから、
「おいおい、お前はお松さんじゃねえか」
「おや、どなた」
 女は振返って、
「まあ、お前は米友さんじゃないか」
「うむ、俺《おい》らだ」
「どうしてこの夜更けに、お前さん、こんなところへ……それでもよ
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