えんだからね」
 米友は何か心がかりのことがあると覚しく、神妙な念の押し方をしました。まだ起き上らない竜之助は、黙ってそれを聞き流しています。竜之助が面《かお》を洗いに縁側へ出たあとで米友は、そこらを片づけながら、二枚折りの屏風の中へ入って行きました。
 敷きっぱなしにしてある蒲団《ふとん》の枕許に形ばかりの刀架《かたなかけ》が置いてあって、それに大小の一腰が置いてあります。
 ふと米友は、その大剣の柄《つか》のところに触れてみて、
「はてな」
 その刀を手に取って屏風の外《はず》れの明るいところへ持ち出し、柄に手を当てて撫でてみました。柄は水で洗ったもののようにビッショリです。
「おかしいぞ」
 米友は暫くその刀を見ていたが、柄に手をかけて、引き抜いて見ようと意気込むところを後ろから、
「危ない、危ない、怪我をするからよせ」
 手を伸ばして、その刀を取り上げたのは、いつのまにか後ろに立っていた竜之助でありました。
「は、は、は」
 米友はなんとなくきまりの悪そうな笑い方をして引込みました。朝飯が済んでしまうと、竜之助は少しの間、日当りのよい縁側のところに坐って日光を浴びていましたが、
前へ 次へ
全200ページ中167ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング