歩きぶりであります。手を伸ばせば、羽掻《はがい》じめになりそうな逃げぶりでありましたから老人は、
「奴め、怪我をしているな」
といちずにそう思ってしまいました。だから勇気はいよいよ増して一息に追いかけた時に、辻斬の狼藉者は、ふいと角を曲って榛の木馬場の稲荷の社《やしろ》の中へ逃げ込んだものと認められます。
「逃げようとて逃がさんぞ」
稲荷の前に並んでいた榛の木の間から狙《ねら》って槍をエイと一声、突き込んだけれども槍は流れました。手許へ繰り込んで、二度突き出した時に、榛の木の蔭にいた辻斬の狼藉者は、ふらふらと二足ばかり前へ出ました。
二度突き損じたと思った老人は、二三歩とびさがりました。そこへ全身を現わした覆面の辻斬の狼藉者は、刀を抜いて腰のところへあてがって、腰から上を屈《かが》めてこっちを見ています。
三度、突きかけようとした遠藤老人は、どうしたものか、突くことができません。ハッハッと息が切れ出しました。槍がワナワナと顫《ふる》え出しました。突くことができないのみならず、引くこともできないらしくあります。
「エイ!」
覆面の辻斬の狼藉者の一声が、氷の上を走るように聞えました
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