なさいまし、わたしのいうことが嘘か本当か、直ぐおわかりになりますから」
「吉原というのは、これから遠いところかえ」
「遠いといったところで知れたものでございます、一里半と思ったら損はございますまい」
「お前、その吉原というところへ、わたしを案内しておくれ」
「いいえ……それはどうも」
「それごらん、わたしを連れて行くことはできまい、お前がつれて行かなければ、わたしは一人で行きます」
 女はこう言って、スーッと出て行きました。

 お角と共に宇津木兵馬が再び吉原の廓内へ引返した時分には騒動は鎮《しず》まって、万字楼の野戦病院も解散され、道庵先生はいずれへ立退いたか姿が見えません。
 たしかに神尾主膳と共にこの楼へ送られて来たのは二人づれであったということ、その一人は盲目《めくら》の人であったということ、その盲目の人がなかばで血を吐いて別室に移されたということ、騒動の時に誰も彼も逃げ出したけれども、結局、その盲目の血を吐いた人だけはひとり別室へ取残されたままでいたこと、それと気がついて、ちょうど近所へ来合せて飲んでいた道庵先生を頼んで、その乗物で助け出してもらおうとしたところから……その後
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