らしい。
「お前さんはどなた」
「金助でございます」
「金助さんとおっしゃるのは?」
「へえ、ただいま殿様のお伴《とも》をして帰ったばかりでございます」
「お角さんはどうしました、お前さんと一緒に帰りましたか」
「いいえ、あの方は、まだ帰りませんで、吉原へ引返して参りました。わたくしはまたその途中で頼まれまして、こちら様へ殿様をお届け申したついでに、こうして御厄介になっているのでございます」
「それでは帰って来たのは、お前さんと、当家の主人の二人きりなの」
「左様でございます」
「も一人の、その連れの人はどうしました」
「それでございますよ、そのお連れのお方の行方が知れなくなったので、それでお角さんと、もう一人のお方が探しに上ったんでございます、わっしはあとを頼まれて、殿様をこの屋敷へお連れ申したんでございますよ」
「そりゃ嘘でしょう」
「どうして嘘なんぞを申しましょう、本当のことでございます」
「嘘、嘘、お前さんと、あの御別家の奥さんやお角さんと、腹を合せてわたしを欺《だま》して、あの人を隠したんでしょう」
「おやおや、腹を合せて……私があの人をお隠し申すにもお隠し申さないにも、てん
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