して来られないの」
「今日は、御主人にお暇をいただいて出て参りましたのですから、その時刻までに帰らなければ済みませんもの」
「御主人? お前はどこに御奉公しているの、御主人というのはどういうお方」
「はい。それは……」
 お松はこの伯母に、今の自分の居所を言っていいか悪いかと躊躇《ちゅうちょ》しました。けれども、言わなければかえって執拗《しつこ》くなるだろうと思ったから、思い切って言ってしまいました。



底本:「大菩薩峠5」ちくま文庫、筑摩書房
   1996(平成8)年2月22日第1刷発行
底本の親本:「大菩薩峠 三」筑摩書房
   1976(昭和51)年6月20日初版発行
※「五ケ寺」「躑躅《つつじ》ケ崎《さき》」「松ケ枝」「隠ケ岡」の「ケ」を小書きしない扱いは、底本通りにしました。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:(株)モモ
校正:原田頌子
2002年9月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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