れども、ムク犬のためには意外の救いが偶然のように起り、少なくともこの場所で、残忍な試験に供せらるるだけの憂目《うきめ》は免れることを得て、いずれへか逃げ去りました。しかし、こうなってみると、これから後、どこまでムク犬が逃げ了《おお》せられるかどうかは疑問であります。武家屋敷の召使や附近の百姓らは総出で、狂犬のあとを追うべく、山や、林や、畑から、巻狩《まきがり》のような陣立てをととのえたのは、それから長い後のことではありませんでした。
 左の肩先を犬に噛まれた神尾主膳は――一時それがために倒れて気絶したように見えました。駈け寄って介抱したもののために、直ぐに正気はつきましたけれど、それがために主膳の怒りは頂上に達し、
「憎い非人ども!」
 威丈高《いたけだか》になって、今しも、ムク犬を追って、外へ出ようとする犬殺しを呼び留めました。
「へいへい」
 そこへへたへたと跪《かしこ》まる犬殺しどもに、
「貴様たちは言語道断《ごんごどうだん》の奴等だ、このザマは何事だ」
「誠に申しわけがござりませぬ、温和《おとな》しそうな犬でございましたから、決してこんなことはなかろうと思いまして」
「黙れ! 
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