り切っていました。兵馬はお君を先に休ませて、明日の駕籠や乗物の事を心配しました。明朝と言っても、もう間もないことだから、今からどうしようという手筈《てはず》もつかないのであります。且《かつ》又《また》、弱り切ったお君の姿を見ると、このうえ駕籠に揺られて、険《けわ》しい山越しをさせることは考えものであります。
 そこで兵馬は、明日一日はここに逗留《とうりゅう》して隠れていようと思いました。その間に準備をととのえ、お君にも休息の暇を与えて、明後日の早朝に出立しようと考えたのであります。
 駕籠の中には兵馬の衣服大小の類も、路用の金も入れてありましたから、兵馬はそれを取り出して調べました。
 江戸へ送り届けて後のこの女の処分も、考えればまるで雲を掴《つか》むようなものです。まさかに能登守の本邸へ送り届けるわけにはゆくまいし、さりとて、江戸はこの女の故郷ではない。江戸へ連れ出してみての問題だが、ともかく、江戸へ連れ出しさえすればどうにかなるだろうと思いました。
 そうしてこの女を江戸へ届けて、ともかくも落着けてみてからの兵馬自身の行動は、直ちにまたこの甲州へ舞い戻って来ることであります。最も怪
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