働きはじめました。勤番支配以下、組頭、奉行、それぞれに職務を励行することになりました。
これは、年が改まって心機が一転したからではありません。
どういう訳か知らないが、この頃、甲府の城へ御老中が巡視においでになるという噂《うわさ》でありました。しかも、その御老中も小笠原|壱岐守《いきのかみ》が来るということでありました。この人は幕末において第一流の人物でありました。この間まで謹慎しておられたはずの明山侯が、何の必要あって突然この甲府へ来られるのだかということは、勤番支配も組頭もみな計《はか》り兼ねておりました。
多分、上方《かみがた》の時局を収拾するためにこの甲州街道を通って上洛する途中、この甲府へ泊るのだろうと見ている者もありました。その他、いろいろにこの御老中の巡視ということが噂になっています。ともかくも、城の内外を疎略のないようにしておかなければならないというのが、新年の宿酔《しゅくすい》の覚めないうちから、急に支配以下が働き出した理由なのであります。
御本丸から始めて天守台、櫓々、曲輪曲輪《くるわくるわ》、門々、御米蔵、役所、お目付小屋、徽典館《きてんかん》、御破損小屋
前へ
次へ
全207ページ中91ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング