す」
「その若い人の名前は何と言うんだい」
「それは……あの、宇津木兵馬というの」
「宇津木兵馬」
米友は口の中でその名を繰返して、お松の手渡しする竹筒入りの薬を受取りました。お松は喜びと感謝とで、米友を拝みたいくらいにしているのに拘《かかわ》らず、米友の面には、やはり前からの曇りが取り払われていません。
お松は米友にくれぐれもこのことを頼んでおいて、またこっそりと傘をさして、前の潜《くぐ》りから帰りました。お松が神尾の邸の前まで来かかった時分に、雪を蹴立てて十数人の人が、南の方から駆けて来てこの門内へ入り込みました。
あまりそのことが、あわただしいので、お松は暫らく立って様子を聞いておりました。
「失敗失敗」
口々にこんなことを言いおります。
「どうした、おのおの方」
酔っているらしい主人の神尾が声。
「ものの見事に出し投げを食った、今までかかって雀一羽も獲《と》れぬ。どこをどうしたか、目当ての鶴は、もう巣へ帰って風呂を浴びているそうじゃ」
「こいつが、こいつが」
神尾主膳は、縁板を踏み鳴らしているようです。それから大勢の罵《ののし》り合う声、神尾の酔いに乗じて叱り飛ばす
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