んが、先のお母さんを殺したんだとそう申しているそうでございます……」
「これ、何を言うのだ」
「お父様、それは嘘《うそ》でございます、嘘でございますけれども、世間ではそんなに噂《うわさ》をしている者もあることは、お父様だってごぞんじでございましょう。お母さんは口惜《くや》しがって死にました。わたしは十歳でしたから、先のお母さんが何をそんなに口惜しがっておいでなすったのか少しも存じません、また誰もわたしに話してくれる人はありませんけれど、あの時分、お母さんのお口からそれとなく、わたしにお聞かせなされた二言三言が、今でも耳に残っているのでございます、それでなるほど、それはそうかと時々思い当ることがあるのでございます。わたしは先のお母さんがかわいそうだと思います。そうかと言って、わたしは今のお母さんに恨みがあるわけでもなんでもございません」
「あああ、困ったことだ、お前の僻《ひが》み根性《こんじょう》は骨まで沁《し》み込んでしまっているのだ、情けないことだ」
伊太夫はなんとも言えない悲しそうな歎息であるのに、お銀様は、父の歎息に同情することがあまりに少ないのであります。
「お父様のおっしゃ
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