家では本心から、わたしの力になってくれる者は幸内のほかにはありませんから、わたしが幸内を大切にしなければ、大切にする者はないのでございます」
「ばかな!」
「ええ、わたしは馬鹿でございます。お父様、わたしをこんなに馬鹿にしたのは誰でございましょう、先《せん》のお母さんが生きておいでなさる時分には、わたしはこれほど馬鹿ではなかったのでございます、わたしもこれほど馬鹿ではなかったし、それに、わたしの……わたしの面《かお》もこんな面ではなかったのでございます。今のお母さんがいらしってから、わたしはこんな馬鹿になりました、わたしの面は……わたしの面は、こんな面になってしまいました」
お銀様は喚《わ》ッと泣き出しました。
「お銀、お前はまたそれを言うのか」
伊太夫は情けない面をして、泣き伏したわが娘の姿を見ていました。
「お父様、もうこれから二度と申し上げるようなことはございますまいから、どうか今晩は申し上げるだけのことを申し上げさせて下さいまし。先《せん》のお母さんは、わたしが十歳《とお》の時に病気で亡くなりました、わたしはその亡くなった時のことをようく存じております、世間では、今のお母さ
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