ほどなく自分の隠れている眼の前へ来た提灯は、初めに兵馬が見つけた時も、ただ提灯だけで人声がしませんでしたけれど、いま眼の前を通り過ぎる時も、やはり話の声がしないで甚だ静かなものであります。
 淋しい山路を人数《にんず》の勢いで通る時などは、つとめて大きな声で話をして景気をつけるのがあたりまえであります。ことにお祭の帰りであってみれば、盛んに土地訛《とちなまり》の若い衆の声などが聞えなければならないはずなのを、提灯の数が三つもあるのに、さりとはあまりに静かな――と兵馬を不審がらせるほどに静かな一行であります。
 いよいよ前へ来た時に、木蔭から覗《のぞ》いて見れば、それは全体が人ではなく、二挺の駕籠の廻りは数人の人で、その前後は三個の提灯でありました。
 ははあ、これはお祭の帰りではない、婚礼かとも思いました。婚礼にしては、あんまり粛《しめ》やかに過ぎる。さては病人を甲府の町へ連れて行ってその帰りであろうと兵馬は、そうも思って見ているうちに、ふと提灯のしるしに眼がとまりました。
 前に下《さが》り藤《ふじ》の紋が大きく書いてありました。下り藤は自分の家と同じ紋であるから兵馬は、なんの気
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