「まだどっちがどうなんだかわからねえんだ、それを無暗に遠矢にかけるのは卑怯だ、もうちっとばかり待てやい、これからの立廻りが面白いんだ」
 やはり誰ともなく叫ぶ声であります。それには頓着なく小森蓮蔵は、弓をキリキリと満月のように引き絞って覘いをつけた的は、屋根の上のがんりき[#「がんりき」に傍点]の百であります。
 小森は弓を満月の如く引き絞りましたけれども、組んずほぐれつの間に、がんりき[#「がんりき」に傍点]だけへ矢先を向けることがむずかしい。ほかのやつらへは怪我をさせないで、がんりき[#「がんりき」に傍点]一人を射て落そうとするために、覘いに時間を要するらしい。
 その間に、見物はようやく不穏の色を以て、小森の弓勢《ゆんぜい》を眺めるようになりました。
「なにも、ああやって、飛道具を用いるまでのことはなかろうじゃねえか、悪い者なら行って引括《ひっくく》って来るがよかろうじゃねえか、役人が手を下《くだ》すまでのことがなけりゃあ、あいつらに任せておいたらよかりそうなものじゃねえか、何が何だかわからねえうちに射殺《いころ》してしまおうというのは、あんまり乱暴だろうじゃねえか、第一、今日は
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