かお》を顰《しか》めて慌《あわただ》しく左右を顧み、
「小森殿、小森殿」
と呼びました。
 エッサエッサという裸虫は両方から取詰めて、がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵は、正面をきって彼等を待ち受けるよりほかは身動きのならぬ立場に至ってしまいました。右の方は八幡宮の屋根までは距離が遠いし、前は馬場、後ろは控えの小屋、どちらへ向いても人が充満しきっています。
「野郎」
 裸虫《はだかむし》が一匹、飛びつきました。
「何をしやがる」
とがんりき[#「がんりき」に傍点]は左の拳を固めて、眼と鼻の間を突くと、裸虫が仰向けに桟敷の上から突き落されました。
「この野郎」
 つづいて飛びかかる裸虫、般若《はんにゃ》の面《めん》を背中に彫《ほ》りかけてある裸虫。
「手前《てめえ》もか」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は平手でピシャリと横面《よこづら》を撲《なぐ》っておいて、足を飛ばして腹のところを蹴ると、これも真逆《まっさか》さまに転げ落ちる。
「野郎」
 第三の裸虫。
「ふざけやがるな」
 第四の裸虫。
「この野郎」
 第五の裸虫。
「野郎、野郎」
 第六の裸虫とそれ以下の裸虫。
 屋根の上
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