れを押してとは言わないで、左様ならばと言ってひきさがりました。お君は、かさねがさねそれが不安でたまりません。隣席のすることはどうしても意地が悪い――もしその中に自分の素性《すじょう》を知った者があっての上ですることではなかろうか。そうだとすれば自分がここにいる以上は、何かの形でその意地悪が続くに違いない。それもあるけれども、またこの多数の見物席の中には、自分をそれと感づいている者はないだろうか――姿と形こそ変っているけれども、この土地へ来て女軽業の一座で踊ったこともある。それを思うとお君は、座に堪えられないほどに不安に感ずるのであります。
こんなことなら来ない方がよかったのにと思いました。しかし来てみれば、いまさら帰るわけにはゆきません。自分が帰ると言い出せば、せっかく興に乗った連れの女中たちを失望させなければならないことを思えば、お君は、じっと針の莚《むしろ》のようなこの席に辛抱しているよりほかはないのであります。
「お君様」
と名を呼んで訪れた者がありましたから、お君は頭を上げて見ると、それはお松でありましたから、
「お松様」
お君はここでお松を得たことを、百万の味方を得たほど
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