た様」
お君の方の老女は迎えに出ました。
「筑前守内より使に上りました」
「筑前守様のお内から?」
それでお君の方《かた》の一座はハッとしました。
「これは、まことに粗末な品でござりますれど、能登守様のお内方《うちかた》へ差上げ下さいまするよう、主人からの言いつけでござりまする」
使に来た女中が捧げているのは、蒔絵《まきえ》の重《じゅう》に酒を添えて来ているものらしくあります。
「それはそれは」
お君の方の一座は、恐縮したり当惑したりしてしまいました。
この際、こんなことをされては有難迷惑の至りで、もしそれをせねばならぬ礼式があるならば、こちらから先にするのが至当でありましょう。それを向うから持って来られてみると、好意を受けないわけにはゆかないし、またその好意なるものが、形式|一遍《いっぺん》の好意ではなくて、なんとなく底気味の悪い好意として見られ易いのです。
「こちらから御挨拶に出ねばなりませぬところを、斯様《かよう》な結構な下され物、なんとお礼を申し上げましてよろしいやら……ともかく、有難く頂戴いたしまする、後刻、改めて御礼に……」
老女は詮方《せんかた》なしにこう挨拶
前へ
次へ
全207ページ中170ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング