見たことはないけれど……という受太刀があります。
けれども、そのいずれにしてもみんな想像説に過ぎません。弥次と喜多とが拾わぬ先の金争いをするようなことになってゆくことがおかしくあります。
ああいう美しい殿様の奥方はさぞ美しかろう、一対《いっつい》の内裏雛《だいりびな》のような……と言い出すものがあると、いやそうでない、ああいう殿様に限って、奥方が醜女《ぶおんな》で嫉妬《やきもち》が深くて、そのくせ、殿様の方で頭が上らなくて、女中へ手出しもならないように出来ている、よくしたものさと、なんだか一人で痛快がっているものもありました。
よけいなお世話ではないか――大入場では、先からこのよけいなお世話で沸騰していましたけれど、もともと影を追っての沸騰ですから、議論の結着しようがありません。
結局、三日のうちには、必ずその奥方が一度は姿を見せるであろうから、その時に鉄札か金札かを見届けようということで議論が定まりかけた時分に、裏庭で一発の花火が揚りました。それを合図に烏帽子《えぼし》直垂《ひたたれ》の世話役が出て来ました。
例の雛壇のうちには、この日は、どちらかと言えば奥方連の方が多いの
前へ
次へ
全207ページ中155ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング