の侍ではなくて、その若党とも覚《おぼ》しき覆面をしない侍でありました。
「はい、有難う存じまする、別に怪我はござりませぬ」
 お角はすぐにお礼と返事とをしました。
「何しろ危ねえことでございます、血がこんなに流れているから、わっしどもはまた、お前様がここに殺されていなさるとばかり思った」
 気味悪そうに提灯を突き出して四方《あたり》を見廻しているのは、やはりこの人品骨柄のよい覆面の侍のお伴《とも》をして来た草履取《ぞうりとり》の類《たぐい》であろうと見えます。
「血が流れていて人が殺されていないから不思議。お女中、そなたはいずれの、何という者」
「いいえ、あの……」
「包まず申すがよい」
「あの、わたくしは……」
 お角は問い糺《ただ》されて、おのずから口籠《くちごも》ります。その口籠るので、若党、草履取はお角にようやく不審の疑いをかけると、
「これには何ぞ仔細があるらしい、ともかく屋敷へ同道致すがよかろう」
と言ったのは、人品骨柄のよい覆面の武家でありました。その声を聞くと爽《さわや》かな、まだお年の若いお方と思われるのみならず、その声になんとやら聞覚えがあるらしく思われるが、お角は
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